謎のローブの人物が放った黒い光線を紙一重でかわしたキムかつは、両腕でサイクロン号をしっかりと抱え込むように持ち、その瞳に闘志を宿していた。 肩に乗る茶白ねこのうーろんと、腕にしがみつく茶トラねこのぷーあるも、異様な空間と敵の存在に警戒を強めているようだ。
「俺は戦いたくはないが…お前たちが猫たちに危害を加えるなら、容赦はしない!」
キムかつは、自らの意思とは裏腹に体が勝手に動くような感覚に戸惑いつつも、目の前の敵と対峙する覚悟を決めた。長年培ってきた格闘ゲームの反射神経と、いかなる状況でも逆転を諦めないゲーマー魂が、彼の全身に漲っていた。
ローブの人物は、キムかつの変貌ぶりに一瞬ひるんだように見えたが、すぐに冷笑を浮かべた。
「面白い…ただの人間にしては、並々ならぬ気配を放つな。その妙な機械のせいか? しかし、この時の狭間で抵抗しても無駄だ。ここは過去と未来、あらゆる並行世界が混じり合う混沌の空間。お前のような存在は、すぐに時の塵となるだろう!」
そう言い放つと、ローブの人物は再び杖を構え、今度は無数の黒い影の塊を放ってきた。影の塊はまるで意志を持ったかのように、キムかつの動きを予測して襲いかかる。
「くそっ!」
キムかつはサイクロン号を両手でしっかりと押さえつけ、左手でレバーを、右手でボタンを高速で操作する。 彼の頭の中には、愛用する格闘ゲームキャラクターの技表が高速で再生されていた。その瞬間、彼の背後に異変が起きた。
まばゆい光が迸ると共に、まるで彼の意志が具現化したかのように、屈強な男の幻影が立ち現れた。 その幻影は、キムかつの愛用キャラクター「三島一八」の姿を模しており、冷徹な表情でローブの人物を見据えている。
「行くぞ! 風神拳!」
キムかつがサイクロン号のレバーを素早く入力し、特定のボタンを叩き込むと、彼の背後に現れた幻影の男が、その言葉に呼応するかのように稲妻を纏った拳を突き出した。その拳は、影の塊の群れを次々と粉砕していく。
しかし、影の塊はしつこい。一つを粉砕しても、次々と新たな影が押し寄せてくる。
「ニャー!」
その時、腕にしがみついていたぷーあるが、突如として身を乗り出し、影の塊の一つに向かって飛びかかった。茶トラの小さな体が、信じられないほどの速度で宙を舞う。そして、ぷーあるの肉球から、まるで電撃のような青白い光が放たれたかと思うと、影の塊は音もなく霧散した。
「ぷ、ぷーある!?」
キムかつは驚愕した。普段は甘えん坊で食いしん坊な愛猫が、まるで超能力者のように影を消し去ったのだ。
ローブの人物も同様に驚きを露わにした。
「な、なんだと!? ただの猫が…異界の力を宿しているというのか!?」
隙を見せたローブの人物に対し、キムかつはすかさず反撃に出た。
「そこだ! デビルツイスター!」
キムかつはサイクロン号のボタンを高速で入力する。すると、彼の背後の幻影の男が、右腕を下から上へ大きく突き上げた。 その動きは、まさに彼がゲーム内で見慣れた強力な技そのものだった。突き上げられた腕がローブの人物のローブの端をかすめると、そこから黒い煙が立ち上った。
ローブの人物は大きく後退し、キムかつと猫たち、そしてその背後に立つ幻影の男をじっと見据えた。
「なるほど…その猫たちは、この時の狭間を安定させるための鍵を持つ者か…そして、その男…お前の力は、この狭間の影響で具現化しているというのか…」
ローブの人物の呟きに、キムかつはハッとした。鍵? 猫たち? 具現化?
その瞬間、キムかつの肩に乗っていたうーろんが、突如として全身の茶白の毛を逆立て、鋭い眼光でローブの人物を睨みつけた。そして、低く唸り声を上げると、うーろんの目から、まるでサーチライトのような緑色の光線が放たれた。光線はローブの人物を正確に捉え、そのローブを焼き焦がしていく。
「ぐっ…貴様ら! どこでその力を手に入れた!?」
ローブの人物は苦悶の声を上げながら、後ずさりする。ローブが焼け焦げ、フードの下から覗いたのは、驚くべきことに、どこかで見たことがあるような、しかし歪んだ顔だった。
「その顔…まさか、お前は…!」
キムかつの頭に、ある考えが閃いた。しかし、その答えを口にする前に、ローブの人物は杖を地面に強く打ちつけた。
「今回はこのくらいで勘弁してやろう! しかし、時の狭間の均衡は既に崩れ始めている…お前たちの力、この目で確かめてやる!」
そう叫ぶと、ローブの人物の体が煙のように薄くなり、巨大な歯車の隙間へと消えていった。
敵が去り、あたりは再び重々しい機械音と蒸気の音に包まれた。キムかつは安堵の息を吐き、膝をついた。背後に具現化していた幻影の男も、光の粒子となって消滅していく。腕の中のぷーあると、肩の上のうーろんは、先ほどの異常な力を発動した後も、まるで何事もなかったかのようにすまし顔で彼を見上げている。
「ぷーある…うーろん…お前たち、一体どうしたんだ? そして、今のあれは…」
キムかつは混乱しつつも、自分の大切な猫たちがとてつもない力を持っていることを知り、言いようのない感動と、少しの恐怖を感じていた。彼は猫たちの頭を優しく撫でた。
「ニャー」
「ニャン」
二匹は応えるように甘い声で鳴いた。普段と変わらない猫たちの反応に、キムかつは少しだけ安心した。
しかし、安心したのも束の間、周囲の歯車が突然、これまで以上に激しく回転し始めた。蒸気の噴出量も増え、空間全体がまるで嵐の中にいるかのように揺れ動く。
「な、なんだ!?」
キムかつは慌てて立ち上がった。金属の床が軋み、彼の足元から巨大な亀裂が走り始めた。亀裂の奥からは、まばゆい光が漏れ出している。
「時の狭間の均衡が崩れているだと!? まさか、俺たちがここにいるせいで…!?」
ローブの人物の言葉がキムかつの脳裏をよぎる。このままでは、この空間ごと崩壊してしまうかもしれない。
その時、サイクロン号のファンが「ヴォオオオオ!」とさらに大きな音を立てて回転数を上げた。七色のLEDが狂ったように明滅し、キムかつが両手で抱えるサイクロン号全体から、脈打つような振動が伝わってくる。
「サイクロン号…お前、何か知ってるのか!?」
まるでサイクロン号が彼に語りかけているかのようだ。すると、サイクロン号の液晶画面に、見たこともない紋様と、彼の知る日本語ではない文字が次々と表示され始めた。その中でも、一際大きく「次ノ扉ヘ…」という文字が浮かび上がった。
亀裂は瞬く間に広がり、巨大な穴が開いた。穴の奥には、白い光が渦巻いている。
「次ノ扉…って、どこだよ!?」
キムかつは叫んだ。しかし、サイクロン号の振動は彼を、穴の方向へと強く押し出す。腕にしがみつくぷーあると、肩に乗ったうーろんも、その振動に呼応するように身震いしていた。
「ニャー!」
「ニャン!」
まるで猫たちが「行こう!」と促しているかのように。
キムかつは意を決した。このままここで立ち止まっていても、元の世界に戻るどころか、この場所で消滅してしまうかもしれない。ならば、このサイクロン号と、猫たちを信じるしかない。
「よし…分かった! サイクロン号、うーろん、ぷーある! 行くぞ!」
赤いマフラーが大きく宙に舞い、茶色の指切りグローブをはめた両手がサイクロン号をしっかりと押さえつける。 茶色のティアドロップサングラスの奥の瞳には、迷いではなく、新たな冒険への決意が宿っていた。
キムかつは、亀裂から漏れ出る光の渦の中へ、躊躇なく飛び込んだ。白い光が彼を包み込み、視界が真っ白になる。次に目が覚めた時、彼らは一体どんな世界にいるのだろうか? そして、愛猫たちの持つ「異界の力」の秘密とは? 時空を超えたキムかつの奇想天外な冒険は、まだ始まったばかりだ!


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