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7月 12, 2025の投稿を表示しています

90kgの体で猫用トンネルをくぐろうとして抜けなくなって軽くパニックになった実家住まいの非正規雇用43歳独身男性キムかつ

    ニャンネルの向こう側 キムかつ(43歳、独身、実家暮らし、非正規雇用、体重90kg)は、古びた実家のリビングで、飼い猫のタマが真新しい猫用トンネルをくぐり抜けるのを、ぼんやりと眺めていた。シャカシャカと音を立てて、しなやかな体がトンネルを駆け抜ける。その軽やかさが、ソファに沈み込む自身の重たい肉体とは対照的で、キムかつの胸にちくりとした痛みが走った。 「タマはいいよなぁ、自由で…」 誰に言うでもなく呟く。工場のライン作業で疲れ切った体は、休日の今日も鉛のように重い。テレビは退屈なワイドショーを垂れ流し、窓の外では、隣家の子供たちの楽しそうな声が聞こえる。何もかもが、キムかつの孤独と停滞感を際立たせるようだった。 その時、悪魔が囁いたのか、それとも単なる気の迷いか。キムかつは、床に置かれたカラフルな猫用トンネルに目をやった。ポリエステル製の、直径わずか25センチほどの筒。 「……俺も、通れるんじゃね?」 突拍子もない考えが、脳裏をよぎった。いや、無理に決まっている。90kgの巨体が、猫のおもちゃを通り抜けられるわけがない。だが、退屈と自己嫌悪が飽和点に達していたキムかつの思考は、妙な方向に舵を切った。もしかしたら、この息苦しい現実から、あの小さなトンネルを抜けた先には、何か違う世界が待っているのかもしれない。そんな、ファンタジーじみた妄想が、むくむくと膨らみ始めたのだ。 「よし、ちょっと試してみるか」 キムかつは、よっこいしょ、と重い腰を上げた。四つん這いになり、トンネルの入り口に頭を向ける。タマが「ニャ?」と怪訝そうな顔でこちらを見ている。 「大丈夫だって、タマ。兄ちゃん、ちょっと冒険してくるからな」     根拠のない自信と共に、キムかつは頭からトンネルに突っ込んだ。布地がギシギシと悲鳴を上げる。思ったより、狭い。肩をすぼめ、腹をへこませ、なんとか上半身をねじ込むことに成功した。 「お、いけるいける!」 調子に乗って、さらに体を押し進める。しかし、問題はここからだった。キムかつの立派な太鼓腹が、トンネルの最も細い部分で、無慈悲な抵抗に遭ったのだ。 「ぐっ…!」 進むことも、退くこともできない。まるで、巨大なソーセージが、無理やり細いケーシングに詰め込まれたような状態だ。トンネルの布地が、皮膚に食い込む。 「あれ…? あ...

桃太郎 feat. キムかつ ~鬼ヶ島ギガ速回線攻防戦~

むかしむかし、というには少し現代に寄りすぎた、とある町の片隅に。40代、独身、非正規雇用、実家暮らしという人生のコンボを背負った男がいた。その名を「キムかつ」。体重90Kgの巨体をゲーミングチェアに沈め、今日も今日とて『鉄拳8』のライブ配信に勤しんでいた。 「うおおらぁ!見とけよお前ら!今度こそ最速風神拳決めたらぁ!」 オールバックにした髪を揺らし、茶色のティアドロップサングラスの奥で目を光らせるキムかつ。その手には、7色に輝く2基のファンが怪しく回転する自作のレバーレスコントローラー「サイクロン号」が握られている。トレードマークの赤いマフラーが、部屋の扇風機の風を受けて虚しく揺れていた。 しかし、画面の中の三島一八は無情にもスカッとしたアッパーを繰り出すだけ。「また最風(さいふう)ミスってんぞw」「ただの風神ステップw」というコメントが画面を流れ、キムかつの眉間に深い谷が刻まれる。 「うるせぇ!コントローラーの調子が悪いんだよ!」 その時、襖がスパン!と開き、母親(通称:おばあちゃん)が巨大な段ボール箱を抱えて立っていた。 「いつまでゲームばっかりやってるの!あんた宛に、なんか胡散臭い桃が届いてるわよ!」 「あ?桃?」 それは、キムかつがエナジードリンクのキャンペーンで応募した「伝説のゲーミングピーチ」だった。開けてみると、桃の形をした最新鋭のゲーミングチェアが鎮座している。大喜びで座るキムかつ。すると、チェアのアームレストからホログラム映像が投影された。 『選ばれし者、キムかつよ。遥か南海の孤島「鬼ヶ島」に巣食う悪質なチーター集団(鬼)を討伐せよ。彼らは違法ツールを用い、オンライン対戦環境を荒らしている。成功報酬は**「生涯無料のギガ速インターネット回線」と「伝説のゲーミングデバイス一式」**とする』 「ギガ……速……回線……だと……!?」 非正規の給料のほとんどを課金と機材に溶かすキムかつにとって、それは金銀財宝以上の輝きを持つ言葉だった。彼の目は完全に据わった。 「鬼退治…上等じゃねえか…!」 キムかつは茶色の指切りグローブをはめ直し、赤いマフラーを締め直した。母親が呆れ顔で「どうせろくなことじゃないんでしょ。ホラ、プロテインとBCAA混ぜといたから」と、きびだんごの代わりに怪しげなプロテインバーを数本手渡した。 「行くぞ!うーろん!ぷーある!」 キムかつが...