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猫の舌に羅針盤 - 当てにならない道案内、または気まぐれな判断のこと。

 

 


春の陽気が心地よい午後、キムかつは近所の公園でぼんやりと空を眺めていた。特に予定もなく、ただ時間が過ぎるのをやり過ごしている。そんな彼の耳に、困ったような若い女性の声が飛び込んできた。

「すみません、あの、この美術館ってどう行けばいいんでしょうか?」

声をかけられたキムかつは、少し戸惑いながらも顔を上げた。目の前には、地図アプリを開いたスマートフォンを手に、不安そうな表情を浮かべた若い女性が立っていた。

 


 

「美術館ですか……ああ、確かあっちの方だったと思いますけど……」

キムかつは曖昧な返事をした。実は、彼はその美術館に行ったことがなかった。しかし、せっかく話しかけてくれた女性に「分かりません」と答えるのは気が引けたのだ。

「えっと、この道をまっすぐ行って、突き当たりを左に曲がって、それから……たぶん、右手に何か目印があるはずです。確か、赤い屋根の建物が見えたような……気がしますね」

自信なさげに、まるで猫の舌で適当な方角を示すかのように、キムかつはでたらめの方角を伝えた。女性は少し不安そうな顔をしながらも、「ありがとうございます」と頭を下げ、キムかつが指した方向へ歩き出した。

数時間後、キムかつが公園のベンチでウトウトしていると、再びあの女性が息を切らせて戻ってきた。


 

「あの!すみません!全然違う場所に辿り着いてしまって……赤い屋根の建物なんてどこにもありませんでした!」

女性は少し怒った様子だった。キムかつは、まさか本当に頼りにされるとは思っていなかったため、慌てて弁解しようとした。

「あ、ああ、すみません!実は、その美術館には行ったことがなくて……たしか、そんな感じだったような、と……」

女性は呆れたようにため息をついた。「もう結構です。自分でちゃんと調べます」と言い残し、足早に去っていった。

ベンチに残されたキムかつは、自分のいい加減な案内を反省した。「やっぱり、知らないことは知らないって言うべきだったな……まさに『猫の舌に羅針盤』だったか」と、心の中で呟いた。

実家に戻ったキムかつは、母親に今日の出来事を話した。「またあんたは適当なこと言って人を困らせて」と呆れられたが、キムかつ自身も、いい加減な知識で人にアドバイスすることの危うさを改めて感じたのだった。それ以来、彼は知らないことを聞かれた時は、素直に「分からない」と答えるように心がけるようになったという。

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