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7月 23, 2025の投稿を表示しています

「痩せたらモテる」と信じて買ったダイエット器具が今では愛猫のお気に入りの爪とぎになっている実家住まいの非正規雇用43歳独身男性キムかつ

    理想の爪痕 キムかつ(43歳、独身、実家暮らし、非正規雇用)の部屋の隅には、かつての希望、そして現在の無力さの象徴が鎮座していた。通販で買った、腹筋を鍛えるという触れ込みの、黒くてゴツいダイエット器具だ。「痩せたらモテる」。そんな、まるで呪文のような言葉を信じて、なけなしのボーナスをはたいて購入したのが、もう何年前になるだろうか。最初の三日間だけは、汗を流し、鏡の前で腹筋の割れ目を夢想した。だが、キムかつの意志は、鍛え上げられるはずだった腹筋よりも遥かに脆弱だった。すぐに器具は埃をかぶり始め、部屋のオブジェと化した。 そして今、その黒い塊は、新たな役割を得ていた。飼い猫のタマが、そのザラザラした表面をいたく気に入り、極上の爪とぎとして愛用しているのだ。バリバリ、バリバリ…。キムかつが安物の発泡酒をあおりながら、ぼんやりとテレビを見ている間も、タマは一心不乱に爪を研いでいる。その音を聞くたび、キムかつは自嘲のため息をつくしかなかった。俺のモテたい願望の残骸が、猫の爪の手入れに使われているとは。人生とは皮肉なものだ。     その夜、異変は起こった。いつものようにタマがダイエット器具で爪を研いでいると、突如、器具が青白い光を放ち始めたのだ。タマがつけた無数の爪痕が、まるで精密な電子回路のように、明滅を繰り返している。 「…ん? なんだ?」 キムかつは目をこすった。疲れているのだろうか。それとも、発泡酒の飲みすぎか。光はすぐに消え、器具は再びただの黒い塊に戻った。タマも、何事もなかったかのように毛づくろいを始めている。気のせいか、と思い、キムかつはそのまま眠りについた。 しかし、それは気のせいではなかった。翌日から、キムかつの部屋に奇妙な変化が起こり始めた。まず、クローゼットの中に、見覚えのない、やけに洒落たデザインのシャツが数枚紛れ込んでいた。誰のだ? いつの間に? 不審に思いつつも、くたびれた自分の服と見比べ、キムかつはそれをそっと元に戻した。 次の日には、机の上に、高級そうな腕時計が置かれていた。もちろん、キムかつのものではない。まるで、「こういうのを身につけるのがモテる男だぞ」とでも言われているような気がして、気味が悪かった。 そして、数日後の深夜。キムかつがトイレに起きて部屋に戻ると、部屋の中央、ダイエット器具の前に...