スキップしてメイン コンテンツに移動

キムかつとさるかに風雲録

 



むかしむかし、とある山里に、一匹の欲張りな猿と、心優しい蟹がおりました。猿は蟹を見かけると、いつも意地悪ばかりしていました。

その山里には、もう一人、風変わりな男が住んでいました。彼の名はキムかつ。築50年を超える古民家に一人暮らしの40代独身男性で、普段は近所のコンビニでアルバイトをしながら、夜な夜な自作のゲームコントローラー「サイクロン号」を駆使してゲーム配信をする日々を送っていました。サイクロン号は、縦27cm、横40cm、高さ6cmの透明アクリルケースに収められ、内部の7色に輝く二つのファンが常に轟音を立てる、彼のトレードマークのような存在です。赤いマフラーを首に巻き、茶色の指切りグローブをはめ、茶色のティアドロップサングラスをかけた巨漢の姿は、山里の住人たちにとって見慣れたものでしたが、どこか浮世離れした雰囲気を漂わせていました。自宅では、茶白の猫うーろんと、茶トラの猫ぷーあるが、彼の帰りをいつも気ままに待っていました。

ある晴れた日のこと、蟹が道端で美味しそうな柿の種を見つけました。喜んでそれを食べようとしたその時、後ろから猿が声をかけました。「やあ、蟹どん。何をそんなに大事そうに抱えているんだ?」

蟹が「これは美味しい柿の種でございます」と答えると、猿はニヤリと笑い、「ふむ、柿の種か。わしはもっと美味い柿の木を持っているぞ! よし、お前のその種と、わしの柿の木を交換してやろう!」と言いました。


 

 

蟹は猿の言葉を鵜呑みにして、柿の種と猿の言う柿の木を交換しました。猿はすぐにその柿の種を地面に植えましたが、蟹に渡したのは、枯れかけの小さな苗木でした。蟹は騙されたと気づきましたが、後の祭りです。

しょんぼりしながら家に帰る蟹。その帰り道、いつものようにサイクロン号を抱え、山道を散歩していたキムかつと出会いました。「やあ、蟹さん。どうしたんだ? そんなに元気がない顔をして」

蟹はキムかつに、猿との出来事を涙ながらに話しました。キムかつは蟹の話を聞くと、茶色のティアドロップサングラスの奥の目を細め、腕を組みました。「なるほど、それは許せん奴だ。しかし、心配するな蟹さん。このキムかつが、必ずや仇を討ってくれる!」

蟹は驚いてキムかつを見上げました。「しかし、あなたは一体……?」

「わしはキムかつ。この山里に住む、ただのゲーム配信者よ。だがな、義を見てせざるは勇なきなり! 悪党には天誅を下すのが、わしのジャスティス! そして、わしの相棒、サイクロン号もそう言っている!」

キムかつはそう言うと、サイクロン号のレバーを力強く握りしめました。すると、内部のファンが轟音を上げ、7色の光が一段と強く輝き始めました。まるで、キムかつの怒りに呼応しているかのようです。

こうして、蟹とキムかつは、猿への復讐を誓い合ったのです。

翌日、キムかつは蟹を連れて、猿の住む場所へと向かいました。猿は大きな柿の木の下で、真っ赤に熟した柿を美味しそうに頬張っていました。

「よう、猿! わしに会いに来たぞ!」キムかつが声をかけると、猿は驚いて振り返りました。「なんだ、お前は? 見慣れない顔だな」

「わしはキムかつ。そして、この可愛そうな蟹さんの仇討ちに来た!」

 


 

猿はゲラゲラと笑い出しました。「なんだと? たかが蟹一匹に、人間様が味方するとはな! 面白い! よし、相手をしてやろう!」

猿はそう言うと、木から飛び降り、鋭い爪を剥き出しにしてキムかつに襲い掛かってきました。しかし、キムかつは慌てません。彼は茶色の指切りグローブをはめた両手でサイクロン号をしっかりと構え、猿の動きを冷静に見据えました。

猿が飛びかかってきた瞬間、キムかつはサイクロン号の赤いボタンを連打しました。「必殺! サイクロン・フィンガー!」

サイクロン号からは、けたたましい音と共に、微弱ながらも高速の風が吹き出しました。猿はその風に驚き、体勢を崩しましたが、決定的なダメージには至りません。「なんだ、その変な機械は!?」猿は戸惑いを隠せません。

「フフフ、これがわしの相棒、サイクロン号の力よ! まだまだこんなもんじゃないぞ!」キムかつはそう言うと、サイクロン号の緑色のボタンを今度は押しました。「サイクロン・ビーム!」

緑色のボタンからは、ファンが発する光が集束した、ほんのりとした温かさを感じる光線が照射されました。猿はその光を浴びて、「なんだかポカポカするぞ?」と、逆に気持ちよさそうな表情を浮かべました。

キムかつの攻撃は、どうやら猿には効果がないようです。

「クソッ、サイクロン号、こんなはずでは……!」キムかつが焦り始めたその時、蟹が小さながらも勇気ある一歩を踏み出しました。蟹は猿の足にそっと近づき、ハサミで彼の足の指を挟んだのです。

「ぎゃあ!」猿は突然の痛みに悲鳴を上げ、飛び跳ねました。

「よくやった、蟹さん!」キムかつは叫びました。「ならばわしも!」

キムかつは、今度はサイクロン号のレバーを勢いよく倒しました。「くらえ! サイクロン・トルネード!」

サイクロン号のファンが猛烈な勢いで回転し、キムかつの周囲に小さな竜巻のような風が発生しました。砂埃が舞い上がり、猿は目をしょぼつかせます。

「こ、これは一体……!」

その隙に、蟹は再び猿の別の指を挟みました。「ぎゃああああ!」

猿はもう我慢の限界です。「こんな卑怯な真似ばかりしおって!」

怒り狂った猿は、近くにあった大きな石を掴み上げ、蟹に投げつけようとしました。その時、どこからともなく「やめろー!」という声が聞こえました。

声の主は、一匹の栗でした。コロコロと転がり出てきた栗は、猿に向かって叫びました。「卑怯な真似をするのはお前の方だ! 蟹さんをいじめるな!」

すると、今度は天井裏から「そうだそうだ!」という声が聞こえました。見上げると、大きな臼がゆっくりと降ろされてきます。そして、囲炉裏の火の中から、熱い熱い火箸が飛び出してきました。

なんと、蟹の仲間たちが、キムかつと蟹の味方として現れたのです!

 


 

栗は猿の足元に転がり、猿が踏んだ瞬間にチクリと刺しました。「痛っ!」

臼は猿の頭上から落ちてきて、ドスン!と大きな音を立てましたが、間一髪で猿は避けることができました。

火箸は熱い先端を猿の尻にめがけて飛んでいきましたが、これも猿はなんとかかわしました。

しかし、次々と繰り出される蟹の仲間たちの攻撃に、猿は完全にパニック状態です。あっちへ逃げ、こっちへ逃げ、散々な目に遭いました。

キムかつは、この予想外の展開に目を丸くしていました。「す、すげぇ! これが、さるかに合戦の真の力か……!」

そして、最後は蟹が渾身の力で猿の尻を挟みました。「ぎゃあああああ! もう勘弁してくれ!」

猿はついに泣き出し、二度と蟹に意地悪をしないと誓いました。

こうして、蟹は見事、猿に仇を討つことができたのです。

戦いが終わり、あたりは静けさを取り戻しました。キムかつは、ボロボロになった猿を見て、どこか同情のような気持ちを抱き始めました。「まあ、これで一件落着だな」

蟹はキムかつに深々と頭を下げました。「キムかつ様、本当にありがとうございました。あなたのおかげで、わたくしは猿に仕返しをすることができました」

「いやいや、わしはただ、困っている者を見過ごせなかっただけだ。それに、サイクロン号も少しは役に立った……、はずだ!」キムかつはそう言うと、少し誇らしげにサイクロン号を撫でました。

その日の夜、キムかつは自宅に戻り、うーろんとぷーあるに今日の出来事を話して聞かせました。二匹の猫は、いつものように彼の膝の上で丸くなり、ゴロゴロと喉を鳴らしていました。

 


 

そして、キムかつはいつものようにゲーム配信を始めました。今日の出来事を面白おかしく視聴者に語ると、コメント欄は驚きと笑いの渦に包まれました。「キムかつさん、まさかさるかに合戦に参戦してたとは!」「サイクロン号、今回はあんまり活躍してなかったような?」「最後の栗と臼のコンボが最強!」

キムかつはコメントを読みながら、照れくさそうに笑いました。「まあ、世の中には、わしのサイクロン号よりもっとすごい力を持った仲間たちがいるってことだな!」

その後も、キムかつは山里で静かに暮らし続けました。時々、蟹が挨拶に訪れたり、栗や臼がお礼の品を持ってきたりすることもありました。そして、キムかつはサイクロン号と共に、今日もどこかで誰かのために、小さな正義を貫いているのかもしれません。彼の赤いマフラーは、今日も山里の風になびいています。


コメント

このブログの人気の投稿

猫の舌に羅針盤 - 当てにならない道案内、または気まぐれな判断のこと。

    春の陽気が心地よい午後、キムかつは近所の公園でぼんやりと空を眺めていた。特に予定もなく、ただ時間が過ぎるのをやり過ごしている。そんな彼の耳に、困ったような若い女性の声が飛び込んできた。 「すみません、あの、この美術館ってどう行けばいいんでしょうか?」 声をかけられたキムかつは、少し戸惑いながらも顔を上げた。目の前には、地図アプリを開いたスマートフォンを手に、不安そうな表情を浮かべた若い女性が立っていた。     「美術館ですか……ああ、確かあっちの方だったと思いますけど……」 キムかつは曖昧な返事をした。実は、彼はその美術館に行ったことがなかった。しかし、せっかく話しかけてくれた女性に「分かりません」と答えるのは気が引けたのだ。 「えっと、この道をまっすぐ行って、突き当たりを左に曲がって、それから……たぶん、右手に何か目印があるはずです。確か、赤い屋根の建物が見えたような……気がしますね」 自信なさげに、まるで猫の舌で適当な方角を示すかのように、キムかつはでたらめの方角を伝えた。女性は少し不安そうな顔をしながらも、「ありがとうございます」と頭を下げ、キムかつが指した方向へ歩き出した。 数時間後、キムかつが公園のベンチでウトウトしていると、再びあの女性が息を切らせて戻ってきた。   「あの!すみません!全然違う場所に辿り着いてしまって……赤い屋根の建物なんてどこにもありませんでした!」 女性は少し怒った様子だった。キムかつは、まさか本当に頼りにされるとは思っていなかったため、慌てて弁解しようとした。 「あ、ああ、すみません!実は、その美術館には行ったことがなくて……たしか、そんな感じだったような、と……」 女性は呆れたようにため息をついた。「もう結構です。自分でちゃんと調べます」と言い残し、足早に去っていった。 ベンチに残されたキムかつは、自分のいい加減な案内を反省した。「やっぱり、知らないことは知らないって言うべきだったな……まさに『猫の舌に羅針盤』だったか」と、心の中で呟いた。 実家に戻ったキムかつは、母親に今日の出来事を話した。「またあんたは適当なこと言って人を困らせて」と呆れられたが、キムかつ自身も、いい加減な知識で人にアドバイスすることの危うさを改めて感じたのだった。それ以来、彼は知らないことを聞かれた...

キムかつ冒険活劇 第四話 風になびく赤いマフラー! 砂漠の秘宝とキムかつ隊

  グリズリー・ベアを打ち破り、異世界格闘大会の観客から喝采を浴びたキムかつは、勝利の興奮と困惑が入り混じった感情で、サイクロン号を抱きしめていた。肩のうーろんと腕のぷーあるも、先ほどの興奮が冷めやらない様子で、闘技場を見渡している。 その時、闘技場の司会者が再び高らかに声を上げた。 「異界の挑戦者、キムカツ! その力、まこと驚くべきもの! しかし、この大会はただの力比べではない! 次なる試練は、知と勇気を試す冒険となる!」 司会者の言葉に、観客たちは再び熱狂する。キムかつの足元の「鉄」のプレートが光り始め、中央部分がゆっくりと下降していった。 「な、なんだ!?」 闘技場の地下へと吸い込まれるように降りていくキムかつ。ぷーあるが不安げに「ニャー」と鳴き、うーろんもキムかつの腕に顔をうずめた。暗闇の中をしばらく下降すると、やがて光が見えてきた。 目を開けると、そこは広大な砂漠の真ん中だった。灼熱の太陽が容赦なく照りつけ、地平線の彼方まで砂漠が広がる。先ほどまでいた闘技場とは打って変わって、静かで、しかしどこか危険な雰囲気が漂っていた。 「砂漠…? 次の試練って一体…」 途方に暮れるキムかつの足元に、突然、古びた羊皮紙が舞い落ちてきた。拾い上げて見ると、そこには歪んだ文字でこう書かれていた。 「風の神殿に眠る秘宝を探せ。砂漠の試練を乗り越えし者のみ、次の扉を開く資格を得るだろう。――案内人は既に、お前の傍らにいる」 「風の神殿? 秘宝? 案内人?」 キムかつが困惑していると、背後から聞き覚えのある声がした。 「やっと来たか、異界の愚か者め」     振り返ると、そこに立っていたのは、先ほどまで闘技場にいたはずの審判ゴブリンだった。だが、彼の雰囲気は先ほどまでとは全く違う。震えていた声には自信が宿り、その目は鋭く光っていた。 「お、お前は…!」 ゴブリンはにやりと笑った。 「わしはこの砂漠の試練の案内人、名をゴブリン・ザ・ウィズダムという。お前は先の戦いでわしを楽しませた。故に、特別にこの試練の道案内をしてやろう」 「は、はあ…」 あまりにも急な展開についていけないキムかつだが、とりあえずこのゴブリンと行動を共にすることになった。 「では、早速出発だ! 風の神殿は、この砂漠の嵐の先に隠されている!」 ゴブリンはそう言うと、どこからともなく巨大な...

愛猫が自分の腹の上で寝るのを「信頼の証だ…!」と勝手に感動している実家住まいの非正規雇用43歳独身男性キムかつ

    薄暗い四畳半、万年床の上で、キムかつは至福の重みを感じていた。愛猫のタマが、ふかふかの、しかし若干加齢臭が漂い始めたキムかつの腹の上で、満足げに喉を鳴らしている。「タマ…お前だけだよ、俺をこんなにも信頼してくれるのは…」。キムかつの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。齢43、実家暮らしの非正規雇用。社会の歯車というよりは、歯車の溝に挟まったホコリのような存在。それがキムかつであった。 その夜、キムかつの腹の上で眠るタマが、不意に淡い七色の光を放った。キムかつは寝ぼけ眼でそれを見て、「おお、タマよ、お前はついに悟りを開いたのか…それとも、俺の腹の脂がプリズム効果を…?」などと見当違いな感動を覚えていた。 翌朝、キムかつが惰眠を貪っていると、階下から母親の甲高い声が響いた。「カツオ!あんた、今日は仕事休みだって!なんか、社長がUFOにさらわれたとかで、会社がてんやわんやらしいわよ!」。キムかつは飛び起きた。UFO?社長が?まさか…。しかし、テレビをつけると、ワイドショーはその話題で持ちきりだった。「昨日未明、〇〇市の株式会社△△の社長宅に謎の飛行物体が飛来し、社長夫妻を連れ去った模様です。現場には奇妙な粘液と、なぜか大量の猫じゃらしが残されており…」。 「…タマ?」 キムかつは恐る恐る、傍らで毛づくろいをするタマに視線を送った。タマは「にゃあ」と一つ鳴き、キムかつの鼻先に肉球を押し付けた。その瞬間、キムかつの脳内に、直接的なイメージが流れ込んできた。『退屈だった。ちょっと宇宙にドライブに行きたくなった。ついでに社長も誘ってみた。土産は猫じゃらしでいいかと思った』。 キムかつは戦慄した。うちの猫、とんでもない能力を秘めているのでは? それからの日々は、キムかつにとってまさに夢のようだった。最初は半信半疑だったが、「明日の昼飯、極上のうな重になあれ」とタマに願えば、翌日、出前持ちが「ご注文の特上うな重です。代金は…あれ?お支払い済みになってますね。どなたかからのプレゼントでしょうか?」と首を傾げながら届けに来る。「あのコンビニの新人バイトの女の子と、ちょっとイイ感じになりたいな」と願えば、翌日、その子がレジで「あの…いつもありがとうございます。これ、よかったら…」と、期限切れ間近のアンパンを頬を染めながら差し出してくる。    ...