広大な砂漠の彼方に、陽炎ゆらめくオアシスの町がありました。そこは旅人たちの休憩地であり、交易の中心地でもありましたが、同時に悪名高い盗賊たちの影が常に付きまとっていました。町から少し離れた小さな家に、貧しい木こりの男、アリババが暮らしています。彼は毎日、ロバに乗って山へ薪を拾いに出かけ、細々と生計を立てていました。
同じ町に、ひときわ異彩を放つ男がいました。彼の名はキムかつ。体重90kg、オールバックのヘアスタイルに、風にたなびく赤いマフラー、茶色の指切りグローブ、茶色のティアドロップサングラスがトレードマークです。彼は40代、独身、実家住まいの非正規雇用で、二匹の愛猫、茶白のうーろんと茶トラのぷーあると暮らしています。主な収入源は、自作のコントローラー「サイクロン号」を使ったゲーム配信です。サイクロン号は、二個のファンが7色に輝く、彼の自慢の品でした。キムかつは町の片隅で営む小さな屋台で、ときどき手作りの菓子を売っていました。彼の配信は一部で熱狂的なファンに支持されていましたが、一般の町人からは「奇妙な男」と思われていることが多かったのです。
ある日のこと、アリババがいつものように山で薪を集めていると、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきました。彼は慌てて身を隠し、様子をうかがいました。現れたのは、重武装した40人の男たち。彼らのリーダーは、見るからに強面で、鋭い目つきをしていました。盗賊たちは大きな岩の前で馬を止めると、リーダーがその岩に向かって大声で叫びました。「開け、ゴマ!」すると驚くべきことに、巨大な岩がガラガラと音を立てて横にスライドし、洞窟の入り口が現れたのです。盗賊たちは次々とその中に入っていき、しばらくすると、たくさんの金銀財宝を積んだ袋を抱えて出てきました。そして、再びリーダーが叫びました。「閉じよ、ゴマ!」岩は元の位置に戻り、盗賊たちはそのまま去っていきました。アリババは震える体で岩に近づき、リーダーの真似をして「開け、ゴマ!」と叫びました。すると岩は再び開き、目の前には想像を絶するほどの金銀財宝が山と積まれていたのです。アリババは驚きと喜びで胸がいっぱいになり、ロバに積めるだけの財宝を持ち帰り、貧しい生活から抜け出すことができました。
その日、たまたま山中で新しい配信場所を探していたキムかつも、この一部始終を目撃していました。彼はサイクロン号を手に、最高の配信アングルを模索していたのです。「すげぇ! まさか、あの噂の盗賊団の秘密の隠し場所がこんなところに!」キムかつは、茶色のティアドロップサングラスの奥で目を輝かせました。彼はすぐにその様子をサイクロン号に搭載された小型カメラで録画したのです。「これは、世紀の大発見だ! この映像を配信すれば、確実にバズるぞ!」彼は興奮冷めやらぬまま、急いで町に戻りました。アリババは、持ち帰った財宝で裕福になりました。しかし、欲深い兄のカシムは、アリババの富の出所を問いただし、無理やり聞き出した洞窟の場所へと向かいました。カシムもまた、合言葉を唱えて洞窟に入り、大量の財宝を手に入れようとしましたが、欲張りすぎたために合言葉を忘れ、洞窟の中に閉じ込められてしまいます。その頃、キムかつは自身の屋台で、今日の出来事を興奮気味に友人に話していました。「まさか、あの『開け、ゴマ』が本当に存在するなんてな! 俺、全部見てたんだぜ!」友人は半信半疑でしたが、キムかつが嬉しそうにサイクロン号の録画映像を見せると、目を丸くしました。「おいおい、本当に秘密の洞窟ってやつがあるのか!?」しかし、キムかつは盗賊たちの顔を鮮明に映した部分を隠し、洞窟の入り口が動く様子だけを見せました。無用なトラブルは避けたかったのです。
盗賊たちが隠れ家に戻ると、カシムの死体を発見しました。リーダーは激怒し、カシムの体をバラバラにして町に運び込み、他の盗賊を送り出してアリババの家を特定させました。カシムの妻は、夫の死を知って悲しみに暮れましたが、聡明な女奴隷モルジアナの機転によって、カシムの死体が町に運び込まれたことがばれずに済みました。しかし、盗賊たちはアリババの家を特定しようと画策していました。彼らは、アリババの家のドアに目印をつけましたが、モルジアナが町中のドアに同じ目印をつけ、盗賊たちの計画を撹乱したのです。キムかつは、この奇妙な出来事にも気づいていました。彼はゲーム配信の際に町を散策することが多く、異変には敏感だったのです。「なんだか、最近この町、妙な物騒な空気が流れてるな。まさか、あの盗賊団が動き出したのか…?」彼の持つサイクロン号のファンが、普段よりも速く、不穏な光を放っているように感じられました。それは、彼のゲームセンサーが危険を察知しているかのようでした。
盗賊のリーダーは、今度は油売りに変装し、40個の大きな油壺をロバに積んで町にやってきました。しかし、その油壺の中には、それぞれ一人の盗賊が隠れており、夜中にアリババの家を襲う計画でした。リーダーはアリババの家に泊めてもらい、その計画を実行しようとしたのです。その夜、アリババの家で、モルジアナが油が足りないことに気づき、外に置いてある油壺の中から油を取ろうとしました。すると、壺の中から人間の声が聞こえるではありませんか。モルジアナは驚きながらも冷静に対応し、熱い油を全ての壺に注ぎ込み、中の盗賊たちを殺しました。この時、キムかつはたまたま夜中に小腹が空き、いつものようにコンビニへ向かっていました。アリババの家の前を通りかかった時、彼は異様な熱気と、うめき声のようなものを耳にしたのです。「なんだ、あれは……?」キムかつは、茶色のティアドロップサングラスをずり上げて、アリババの家の様子をうかがいました。サイクロン号のファンは、かつてないほどの速度で回転し、警告を発するかのように7色に点滅しています。彼は直感的に何か大きな事件が起きていることを察知しました。しかし、彼は直接介入するのではなく、得意の「記録」に徹することにしたのです。サイクロン号の小型カメラで、そっとその様子を撮影します。窓から見えたのは、モルジアナが慌ただしく動き回る姿と、煙の上がる油壺の不気味な光景でした。「これは、ただごとじゃないぞ……」
キムかつは、この映像が再びバズることを確信しましたが、それ以上に、アリババの身に降りかかっているであろう危険を感じていました。彼はアリババとはほとんど交流がありませんでしたが、同じ町に住む者として、何かできることはないかと考えたのです。
翌朝、盗賊のリーダーは計画が失敗したことを知り、単独でアリババに復讐しようと誓いました。彼は今度は商人に変装し、アリババの家に近づいたのです。その頃、アリババはモルジアナの働きに感謝し、彼女を自由の身にすると告げました。モルジアナはアリババへの忠誠心から、リーダーの正体を見破り、アリババの食事の際に踊りを披露し、その隙を突いてリーダーを短剣で刺し殺したのです。この間、キムかつはアリババの家から少し離れた場所で、昨日撮影した映像を編集し、自身の配信準備を進めていました。彼は「伝説の盗賊団の秘密と、ある家の奇妙な夜」というタイトルで配信を行うつもりでした。その中で、サイクロン号が発した警告の光や、奇妙な熱気についても語ろうと考えていたのです。彼が編集を終え、いざ配信を始めようとしたその時、アリババの家から大きな叫び声が聞こえました。「これは……!?」キムかつは慌ててサイクロン号を抱え、アリババの家へと駆けつけました。彼が到着した時、盗賊のリーダーはすでに倒れており、モルジアナが短剣を握りしめて立っていました。アリババは驚きと安堵の表情を浮かべています。「何が、何が起こったんだ!?」キムかつは、咄嗟にサイクロン号のカメラを起動させ、この劇的な瞬間を捉えました。
アリババとモルジアナは、これまでの経緯をキムかつに説明しました。彼らは、キムかつが最初からこの一件を一部始終見ていたことを知り、驚きと同時に、その冷静な観察眼に感銘を受けました。アリババは、生き残った盗賊のリーダーを倒したモルジアナの勇気を称え、彼女を自分の息子の妻として迎え入れました。そして、盗賊の隠れ家である洞窟の秘密は、アリババとその家族、そしてモルジアナ、そしてキムかつだけが知る秘密となったのです。
キムかつは、この一連の出来事をすべて配信で語ることはありませんでした。彼は、この物語の主人公が自分ではないことを理解していたからです。しかし、彼は自身の配信の中で、こう語りました。「俺は、この目で『風の導き』を見た。そして、その風は、勇気ある者たちを助け、悪しき者たちを打ち砕いたんだ。サイクロン号も、その瞬間、最高の輝きを放っていたぜ!」彼の言葉は、配信を見ていたファンたちを熱狂させました。彼らは、キムかつの話に感動し、その背景にある「見えない真実」を感じ取ったのです。キムかつは、その後もゲーム配信を続けましたが、彼の心の中には、この冒険で得た確かな自信と、町を見守る新しい視点が加わりました。彼は、サイクロン号とともに、今日も町の片隅から、世界のできごとを見つめ続けるのだった。そして、うーろんとぷーあるは、相変わらず彼の足元で、のんびりと眠っています。



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